テレビアン「形式不明」修復記その3


(続)真空管ラジオ修復記 > 戦前〜戦時中〜終戦直後のラジオその6 > テレビアン「形式不明」修復記その3

修理を依頼された、山中電機(TELEVIAN)の「形式不明」 の修復をして見ました。


修復前の様子。使用真空管は、当初はUZ−58(高周波増幅)、UZ−57A(再生検波)、6Z−P1(電力増幅)、KX−80BK(整流)だった。出力管だけが6.3V管と、ちょっと変わった構成であると思ったら、2.5Vで点火している様だ。普通はこの時代のラジオは出力管はUY−47Bか3Y−P1を使うはずなのに、おかしい。ソケットをUYからUZに交換した跡も見られないし、不思議だ???整流管も普通はKX−12Fであるが・・・。真空管をTV−7/ Uにてチェックしたが、残念ながらベースの半田付けを直したが、UZ−57Aがヒーター不点灯で不良であった。


修復前の内部様子。年代を考えると綺麗な方だ。スピーカーから音が出るという事なんで、マグネチックスピーカーのコイルは導通があるらしい。2.5Vで点火した6Z−P1でも音が出たのか?試しにTV−7/ Uでこの6Z−P1を試験したところ、規定値40に対し測定値は60と良好であり、このままヒーター電圧を2.5Vに変更して試験したら測定値は24であった。ヒーター電圧が半分以下でもそこそこ動作するんだな〜と関心しました。


修復前のシャーシー上部の様子。シャーシーは錆びも少なく、状態は良い。戦後に青色に再塗装されているみたいだ。


修復前のシャーシー内部の様子。一部のコンデンサーが交換されている様だ。ヒューズに何と10Aの物が付いていたので、適正値の物に交換する。3つのツマミは左から電源、再生、感度とキャビネットに記載がある。


右側の感度調整と記載された、この10KΩの可変抵抗器であるが、軸が無限に回転し、抵抗値の変化も無茶苦茶で壊れているみたいだ。


出力管のUZ(6P)ソケットは、リベットもそのまま残っており、交換された形跡が見当たらない。普通ならUY(5P)ソケットが付いていて、出力管がUY−47Bや3Y−P1が使用されているはずである。ところが実際の配線を見てみると、ヒーターの片側がアースに接続されている。もし出力管がUY−47Bや3Y−P1ならば、ヒーターの中点がアースに接続されているはずだ。どうもおかしい???UZソケットで2.5Vの出力管はUZ−42の2.5V管のUZ−2A5があるが、戦前の高級ラジオにしか使われなかったらしいが、状況から見てこのラジオはどうもそのUZ−2A5が使われていたらしい。UZ−2A5は3Y−P1より入手が困難で、高価である。僕の所にも2本しか在庫がない。となると、2.5Vのヒーター電流は他も含めて4A程度必要であるが、どう見てもヒーター巻き線の太さから、そんなに流せない気がする。トランス容量は大丈夫であろうか?そもそも戦前の普通の高一ラジオに、このUZ−2A5が使われているのを見たのは初めてである・・・。謎が多いラジオである。


コイルの断線のなかった、マグネチックスピーカーであるが、ご覧の様にかなり錆びている。この頃のコイルは巻き線の材質が悪く、使っていると必ず断線するので、巻き直しを実施する事にする。出力管が高級なUZ−2A5を使用しているのに、パーマネントスピーカーではなく、マグネチックスピーカー使用とは、アンバランスな気がするが・・・。


電気回路の修復が完了したところ。全ての配線をやり直し、コンデンサー類を交換しました。電源コードも新品に交換しました。これで安心して通電できます。懸案の出力管は6Z−P1のままでも音が出そうなので、このまま使用する事にする。音が小さい様ならUZ−2A5に交換する事にする。修復費用を抑えるために、抵抗類はこのまま使用する事とした。通電確認したところ、ここで重大な問題が発見された。電源トランスのヒーター巻き線のレギュレーションが悪すぎるのである。このラジオで使用される真空管のヒーターは、元々は2.5V管使用なので、2.5V前後が出るはずであるが、何と無負荷で7.4V、真空管を全て刺しても4.5V程度の電圧が出るのである。消費電力を計測して、流れ過ぎると思ったら、ヒーター電圧が高すぎるのである。試しに出力管を、6Z−P1から、UZ−2A5に差し替えて計測しても、3.2V位の電圧が出るのである。ひょっとして、6.3V/1.5A程度の巻き線を無理矢理2.5V管に使っているのかもしれない。もしかして、元々はUZ−6D6、UZ−6C6、6Z−P1、KX−12Fの戦後の高一ラジオだったのかもしれない。だとすると出力管が6Z−P1なのも理解出来るし、電源トランスのヒーター巻き線も6.3V/1Aで足りるので理解出来る。さーて、どうしようか?このままの真空管構成で行くならば、2.5Vのヒータートランスを別に用意すれば、めでたく解決するのだが、予算が2,000円程オーバーしてしまう・・・。戦後の6.3V管に変えてテストしてみよう!


マグネチックスピーカーのコイルを巻き直す作業を開始した。これが時間が掛かる作業である。コーン紙の破れもなく良好であるが、このスピーカーは交換された物らしく、キャビネットにはネジ1本で固定されているだけだった。


修復が完了したところ。真空管を戦後の6.3V管に交換して、見事復活した。よーく見るとキャビネットの横側に放送局認定マークが付いていた。これは戦時中〜戦後直後に、物資不足とラジオの価格統制の為に付けられたマークで、戦時中の国策受信機から、終戦直後に名称を変えた国民受信機と呼ばれた受信機である。このラジオは使用真空管から、国民2号受信機と呼ばれるラジオである。全く不思議なラジオだったが、やっと問題が解決してすっきりした。キャビネットに回路図も真空管名所も記載がないので、戦後6.3V管の所に無理矢理2.5V管を刺して、使われたのだと推測される。同調・再生調整・感度の調整が慣れるまで戸惑うと思います。終戦直後のラジオです。感度も分離も悪いです。音が小さければ白いアンテナ線を延長してお楽しみください。親戚から受け継いだラジオ、マグネチックスピーカーの独特の音を、末永く大切にお楽しみください。

以上、修復作業時間は約15時間、交換部品代は約5,000円でした。

誠文堂新光社から2007年11月16日に発売の「真空管ラジオ製作ガイド」と、2008年12月17日発売の「ゲルマラジオ製作徹底ガイド」と、2009年10月22日に発売の「真空管レフレックスラジオ実践製作ガイド」と、CQ出版社から2010年4月19日発売の「CQハムラジオ」の一部を執筆させて頂きました。是非とも1冊ご購入をお願いします!

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