東芝「かなりやLS」修復記


(続)真空管ラジオ修復記 > 戦後mT管トランスレススーパーラジオその3 > 東芝「かなりやLS」修復記

修理を依頼された、東京芝浦電気(TOSHIBA)の「かなりやLS,5AD−128」 の修復をして見ました。


修復前の様子。使用真空管は12BE6(周波数変換)、12BA6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)、30A5(電力増幅)、35W4(整流)とオーソドックスである。キャビネットは多少汚れていて汚い!


修復前の内部様子。スピーカーへの配線が取れていたりと、誰か修理した痕跡がある。ダイアル糸も切れている。怪しさ炸裂!!!何だ何だ〜っ?


修復前のシャーシー内部の様子。パネルは少々錆が出てきているので、再塗装する事にする。レス機には珍しく、パイロットランプが2個付いており、バンド切り替えと連動して点灯する仕組みである。またこの機種は、短波放送受信に力を入れている機種で、何とバンド切り替えロータリーSWに直付けでアンテナコイルが取り付けられて、配線が最短距離で接続される仕組みになっている。果たして効果の程は・・・?(後に、これが悲劇の始まりになるとは・・・。)


カバーを取り外したところ。誰か修理してあきらめた様なラジオである。修理依頼人の方が、オークションで入手した時から、こんな様子であったらしい。素人が下手にいじって、目茶苦茶にしたラジオが修理に来るのは、一番迷惑な話である。オークションに出品する方は、どうぞこんなラジオを出さないでください!また落札する方はこんなラジオをつかまされない様に、状態の悪いラジオを見極める様にしましょう!このラジオのオークションの説明文では、少し調整すれば動くと書いてあったのですが・・・!!


切れていたダイアル糸も張り直しました。糸掛け図が貼ってあったので良かったですが、無ければ解らない様な難しい張り方です。


全てのペーパーコンデンサーを交換し、漏洩電流の多かったケミコンも交換しました。安心して通電できる様になりましたので、通電試験を実施しましたが、思ったとおりこの段階ではまだ放送は受信出来ませんでした。


音が出ないラジオの故障箇所の推測には、まず低周波回路の故障か、高周波回路の故障かを見極めなくてはなりません。このラジオは低周波増幅部は正常の様です。また、局部発振も正常の様です。そこでまず高周波回路を中心に各部分の電圧を測定してみます。幸いにも回路図が張ってあります。標準回路と多少の相違は有りますが、大体同じ様な回路です。各部の電圧を測ってみると、AVC電圧(初段IFTのF端子の電圧)が0Vです。AVC電圧は、マジックアイの指示等に使用される電圧で、受信している電波の強さによって変化します。(AVC電圧は、負の電圧です)ところが、このラジオでは、0Vからピクリとも動きません。放送が受信出来ないラジオなんで、動かないのは解りますが、何らかの電圧がでるハズです。0Vは明らかにおかしいです。このノードとアース間の導通を測って見ると、なんと数Ωの導通があります。回路図を見て解るように、このノードはアースとそんな低い値での導通があるハズはありません。(計算では2.5MΩ以上のハズです!)数Ωって抵抗値がポイントです!このラジオには数Ωの抵抗は使用されていませんので、コイルの直流抵抗を読んでいるものと推測できます。このノードには、発振コイルとアンテナコイルが繋がっていますので、どちらかがアースにショートしている事が推測されます。調査の結果、アンテナコイルの反対側(12BE6の第三グリッド側)が見事にアースにショートしていました。ここは電波の入り口ですので、アースにショートされると、放送が受信出来ないのは、明白です!だんだん解ってきましたヨ!


このラジオは先に書いた様に、バンド切り替えのロータリーSWの上部に直づけでアンテナコイルが設置されています。配線が最短距離で出来るのはいいのですが、アンテナコイルの端子とSWの端子が接近しています。原因は一カ所のコイルの端子が、下のロータリーSWの接点部分とショートしている事でした。この部分は目視チェックもしましたが、見逃してしまいました。コイルの半田が多く付け過ぎており、下部の接点とショートしています。メーカー出荷時には、正常に鳴っていたでしょうから、以前のオーナーが修理か改造でいじって、何かの原因でこの箇所に半田付けをやり直し、半田を盛りすぎて下とショートしたのだと推測されます。そしてラジオが鳴らなくなり、あちこちいじり回して結局あきらめてそのまま放置したのでしょう。それをオークションに出品し、落札者の方が僕の所に修理を依頼してきたという訳です。なんとも悲運な話です。ショート部分を直して通電すると、やっと快調に受信できる様になりました!まったく苦労しますねぇ!こんなラジオは一番嫌ですねぇ!


修復が完了したところ。各種調整後、1時間程テストして問題無さそうなので完了とする。短波受信をメインにしているだけ有って、感度もまあまあであるが、高周波増幅付きではないので、あまり変わらないと言うのが正しいであろう・・・。パイロットランプが離れた所にあって、暗いのが寂しいのである。苦労したラジオですので、大切にお使い下さい!

このラジオの修理依頼者の方のブログはこちらです。併せてごらんください。

以上、修復作業時間は約10時間、交換部品代は約1,500円でした。

このかなりやLSに関しましては、かなりやのお宿の佐藤様のページでも紹介されています。こちらもご覧ください。

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