ナショナル「当選号」修復記


(続)真空管ラジオ修復記 > 戦前〜戦時中〜終戦直後のラジオその4 > ナショナル「当選号」修復記

修理を依頼された、松下電器製作所(NATIONAL)の「当選号」 Type1701の修復をして見ました。


まず、このラジオのポスターから。これもナショナルの戦前の有名な受信機です。


修復前の様子。あの有名なラジオの当選号がついに修理にやってきました。これは電源を電灯線から取ることができるエリミネーターラジオとして、東京中央放送局(現NHK)が昭和6年にラジオセットのコンクールを開催し、見事に1等に当選した松下電器で発売された最初のラジオです。この当選号は、3〜5球といろいろと形式があるらしいですが、僕の所に来たラジオは、Type1701という形式らしいです。(内部の形式名記載から)いずれにせよ、大変貴重なラジオです。使用真空管はオリジナルでは、UY−227(再生検波)、UX−226(低周波増幅)、UX−112A(電力増幅)、KX−112B(整流)のナス管使用であるが、UY−227、UX−26B、UX−12A、KX−12Fの、検波管以外はST管が刺さっている。真空管を試験してみましたが、やはりかなり劣化している様でした。回路的には戦前のオーソドックスな並四である。上のマグネチックスピーカーの接続コードは、緑のビニール平行線が付いており、一度修理されたらしい。コイルは奇跡的に断線していなかったが、依頼主の方の希望により今後の事を考えて巻き直しの予定です。


修復前の内部様子。オリジナルであろうか?見た目より、ずっしり重たい。電源コードが欠品らしく、シャーシー右端のインレットに差し込めるプラグが入手出来ない。困った困った・・・。雰囲気を壊さない何か代用品を、魔法のジャンク箱から捜さなくては・・・!


修復前のシャーシー上部の様子。改造されていなければ良いのであるが・・・。バリコンなど主要部品もシャーシー内に収まっている構造になっている。どおりで重たい訳だ。左のアルミの箱は、段間の低周波トランスらしい。断線していなければ良いのですが。黒光りしているシャーシーが、存在感がある。


シャーシーを前から見た様子。なるほど、重たいと思ったら、こんな構造になっていたのか!


裏蓋は重厚な作りで、裏には特許一覧の紙が貼られていた。


前面パネルも歴史を感じさせる。このラジオは、当時どんな放送を再生したのであろうか・・・?音を聞くのが楽しみなラジオである。依頼主の方から、外部入力も出来る様にして欲しいとの事で、また入力トランスを製作の予定である。つまみは右側が再生調整、中央が同調、左側が音量調整である。再生調整の仕方はこちら


魔法のジャンク箱から、ぴったりの電源のインレッド(新品)が見つかりました。寸法的にもぴったりです。この製品はもう何十年も前に廃番になった製品です。今では入手困難なレア物です。


インレッドに器具用コードと、ポニーキャップの電源プラグを取り付けてみました。これで、当時の雰囲気もばっちりですね!


シャーシー後ろの銘板の様子。Type1701と記載がある。なんかかっこいい風格があります。


ラジオ横には、昭和25年中部配電の検査票が貼られている。


修復前のシャーシー内部の様子。段間の低周波トランスが断線したのか、CR結合に修理されているが、他は改造の跡はないらしい。良かった良かった!


電源トランス(と思われた)部分は、綺麗に配線されているが・・・。端子には、真空管の名称が刻印されていて、解りやすい。


電力増幅段の、この部分がCR結合に改造修理されていた。他はオリジナルのまま。


シャーシーの後ろのカバーを外すと、こんなでした。カバーを外すのもかなり面倒でした。


カバーはこんな感じです。両側にもカバーが有り、ツメが両サイドについています。これを折って外すのは、メインテナンス性として如何でしょうか?優秀で故障しなかったのか?


メインの表示部分は、上側の指針は同調を、見にくいですが下側の指針は再生を示します。再生の位置を表示出来るのは、解りやすいですね。必要かどうか解りませんが?


再生側の指針は、再生バリコンからご覧の様な機構で針を動かします。(解りにくくてすみません!)再生バリコンは360度回転するので、指針も往復運動します。パイロットランプが球切れで交換しました。電球を交換するのにも、ここまで分解しなければなりません。


分解してみて、コンデンサーが見あたらないなぁ〜と思ってましたら、どうもこのトランスと思われている部分に何か有りそうです。これを分解するのも、大変な手間でした。


トランスと思われた部分を、配線を外して分解してみました。電源ユニットらしく、電源トランスやコンデンサーや、チョークコイルが出てきました。試験済の紙が貼ってあるのが、ブロック型ペーパーコンデンサーみたいです。日本無線と記載があります。


ブロック型ペーパーコンデンサーを外すと、電源トランスとチョークコイルがやっと姿を現しました。ずいぶん手の込んだ構造です。これを外すのに、タールで手が真っ黒になりました。トホホ!内部には、コンデンサーを含め、自己バイアスの抵抗なども入っている様です。まさに電源ユニットです。パソコンの電源部分みたいな感じですね。何と斬新的な発想なんだろう!(笑)


危険なペーパーコンデンサー類を現在の部品に置き換えました。小型化されているので、余裕です。これで蓋をすれば、外見は当時のままになります。コンデンサーを交換するだけで、こんなに手間が掛かりました。ラジオ創世記の製品なので、メインテナンスの事は、あまり考慮されていない様ですね。絶縁試験を実施して良好だったので、トランスの通電試験を実施しましたが、電圧は正常でした。チョークコイルも断線なし。まずは第一関門突破。


iPodなど、外部入力から音楽も楽しみたいとの依頼主の希望により、外部入力用のインピーダンス変換入力トランスを製作しました。このラジオはPU入力端子は付いているものの、グリッド直結で切り替えスイッチが付いていないので、ボックス側にラジオと外部入力を切り替えるスイッチを取り付けました。入力(だけ)は、3.5mmのステレオミニプラグです。ラジオ自体はモノラルですので・・・。最近は真空管ラジオでiPodの音を聞きたいというご希望が多く、何台かこの入力トランスを製作しています。意外と良い音だと感想を聞くのですが、良い音で楽しみたいなら、高級オーディオに接続する事をお勧めします!(爆!)なお、入力トランスはスピーカーに近づけると発振しますので、離してお使いください。


電気回路の修復が完了したシャーシー内部の様子。できるだけオリジナルの部品を使用し、切れていた2段目の低周波トランスを追加しました。不良だった電源スイッチとボリュームは新品に交換しました。通電し動作確認し、ラジオ放送の受信を確認できました。このラジオが放送を聞かせてくれるのは、何十年ぶりでしょうか?次はマグネチックスピーカーの巻き直し作業に取りかかります。


スピーカーボックスの裏蓋を開けると、こんな感じでした。


マグネチックスピーカーには、丁寧にカバーが取り付けられている。


スピーカー自体は、コーン紙の破れもなく、良好である。


コイル部分の仕組みは、一般的である。これから0.1mmのUEWを、3,500回巻き直しを実施して、いよいよ完成である。


巻き直しが完了したコイル。取り付け調整後、完成となります。


修復が完了したところ。最初はかなり音が小さかった。アンテナコイルが鉄製のシャーシー内部に押し込まれているのと、真空管がかなり劣化しているのと、マグネチックスピーカーの磁力がかなり弱っている事が原因だ。もう製造から80年以上のラジオですので、仕方がない事です。マグネチックスピーカーにバナジウム強力磁石を付けて磁力をアップしたり、いろいろと調整したりして、かなり改善されました。出来る限りの修復をしました。博物館級の貴重なラジオです。是非とも末永く、大切にお使いください!


その後、依頼主の方から写真を送付して頂きました。復刻版の右のr−1(トランジスタラジオ)と並べると、親子みたいですね!喜んで頂いて光栄です。大切に使ってくださいね!

以上、交換部品代は約6,500円、修復作業時間は約20時間でした。

誠文堂新光社から2007年11月16日に発売の「真空管ラジオ製作ガイド」と、2008年12月17日発売の「ゲルマラジオ製作徹底ガイド」と、2009年10月22日に発売の「真空管レフレックスラジオ実践製作ガイド」と、CQ出版社から2010年4月19日発売の「CQハムラジオ」の一部を執筆させて頂きました。是非とも1冊ご購入をお願いします!

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