電気用品安全法への対応について


(続)真空管ラジオ修復記 > 電気用品安全法への対応について

 巷でも話題になっていますが、電気用品安全法が2001年4月1日に施行されました。これは旧電気用品取締法を改正し、安全基準を満たしていない(PSEマークの付いていない)製品を製造・輸入・販売することを禁じるという、一見合理的な法律ですが、中古品にまでその適応範囲を広げているために、各所で混乱が生じております。2006年4月1日から、猶予期間が終了したPSEマークの付いていない一部の電気製品の販売が禁止されます。PSEマークとは、安全基準の検査を実施し、基準を満たしている電気製品に取り付けるマークで、Product Safety, Electric Appliance & Materialsの略です。このマークには2種類あって、特定電気用品(角PSEマーク、発火などの危険性の高い物)と、それ以外(丸PSEマーク、発火などの危険性の低い物)に分けられます。法律の主旨はわかりますが、問題がたくさん有りそうな気がします・・・。

 角PSEマークと、丸PSEマーク。

 ちなみにラジオ受信機は電子応用機械器具ですので、特定電気用品以外の丸PSEマーク対象製品にあたり法律の施行猶予期間は5年間です。経済産業省の電気用品安全法のページに詳しく書かれています。と、言う事は、PSEマークが付いていない真空管ラジオは2006年4月1日以降は販売出来ない事になります。当然真空管ラジオが製造された昭和初期にはこの法律がありませんでしたから、PSEマークが付いている真空管ラジオは存在しません。ただし個人で単発的にオークション等で販売することは認められていますが、ある程度数が多かったり継続的に販売してると業者と見なされ、法律の規制対象になってしまいます。Yahoo!オークションのお知らせもガイドラインを設置している様です。僕の場合は、真空管ラジオの収集と復元は個人の趣味でやっている訳ですし、真空管ラジオの販売は致しておりませんので、この法律の規制対象外にあたります。

 また、真空管ラジオの修理に関して電気用品安全法では、「電気用品に電気的加工を伴う改造・修理を行った場合は、元の電気用品と電気的・機械的条件が異なるものとなりますので、新たな電気用品の完成行為に当たる」とし、「改造・修理後の電気用品について、技術基準適合等の電安法上の義務を履行する必要がある」としています。(家電製品修理業者が、PSEマークの付いていない電気製品の修理が実施出来なくなると言う噂もあります。修理と製造は違うと思うのですがね・・・?修理に関しては、行政の見解が二転三転している様です!)経産省のHPには、やっと修理は対象外である旨、掲載された様ですね!

 僕は業者ではありませんが、安全の確認の為に修理したラジオは絶縁抵抗試験などを実施してあります。ちなみに中古電気製品にPSEを取り付ける場合の安全検査には、@外観検査、A通電試験、B絶縁耐力試験、C検査結果の3年間保存、の4つを規定しております。検査結果で記述する必要があるのは、電気用品の品目、区分、構造、材質や性能の概要、検査を行った年月日と場所、検査の実施者、検査を行った電気用品の数量、検査の方法、検査結果などです。ただし、記録は3年間保存を必要とします。つまり業者として登録して、絶縁試験結果を3年間保存すれば、正式にPSEマークを添付する事が出来る様な気がしますが、果たして昭和初期の真空管ラジオにそんな絶縁耐力があるでしょうか?現在は、一応電気用品安全法第8条に基づいた自主検査項目の絶縁試験等を実施し、結果をご報告させて頂いております。ただし業者としてPSEマークを添付すると言うことは、その製品に関して責任を負わなくてはならない事になりますから、そんな事は出来ません。昭和初期の真空管ラジオの安全性を保証し、事故が起きたときに損害を賠償するなんて、個人ではとても無理です!

 ← 絶縁耐力試験装置、日置3159

 3月14日、経済産業省は希少価値の高い、電子楽器、音響機器(真空管アンプを含む!)のほか、写真の焼き付け機や映写機などは、PSEマークが無くても販売出来る様に改正したと発表しましたが、まだまだ対応は不十分の様です。特別承認制度(いわゆるビンテージもの関係)としては、下記の様に記載されています。(以下原文のまま記載)

 いわゆるビンテージものと呼ばれる電子楽器等については、希少価値も高く、絶縁耐力試験を含む自主検査について心配する声も存在する。また、こうした電子楽器等は取扱いに慣れた者の間で売買される蓋然性も高いという特徴を有する。このため、下記の要件を満たす場合には簡単な手続きで売買ができるようにする。

1)電気楽器、電子楽器、音響機器、写真焼付器、写真引伸機、写真引伸用ランプハウス又は映写機のいずれかであること。
2)既に生産が終了しており、他の電気製品により代替することができないものであって、かつ、希少価値が高いと認められるものであること。
3)旧法(電気用品取締法)に基づく表示等があるものであること。
4)当該電気用品の取扱に慣れた者に対して国内で販売するものであること。

(以上)

 ・・・ですが、真空管ラジオについて考えると、まず1)の音響機器はいいとして、2)の既に生産が終了しており、他の電気製品により代替することができないとありますが、確かに真空管ラジオは生産が終了してますが、普通のトランジスターラジオなどで代替ができますね?また、希少価値が高いと認められるは誰がどの様な基準で判断するのでしょうね?真空管ラジオは誰が考えても希少価値が高いと思うのですが?問題は3)です。古い戦前の真空管ラジオには、旧法(電気用品取締法)に基づく表示等は無いですよね!どうします?また4)では、「おまえは真空管ラジオの取扱に慣れているか?」と聞いてから売るのでしょうか?ずいぶん判断が曖昧ですよね?良いように解釈していいと言う事でしょうか?

 どう考えても納得出来ないですよね?如何でしょうか?

 3月24日、経済産業省は、中古電気製品を後で自主検査を実施するという条件付きで、PSEマークの無い中古製品の販売を認めるという何とも中途半端な妥協案を提示しました。リサイクル業者などの反発に屈したみたいですが、一度販売した製品を後から検査し直すなんで、出来る訳がないですよね?往生際が悪いというか、プライドが高いというか、考えがお役人的というか、あきれてしまいます!確かに一度決めた法律を改正するのには、議会の承認などそれなりの手続きが必要なのはわかりますが・・・。それがお役所仕事でしょうけどね!


一応僕は、「電気用品安全法講習会」も受講しました・・・。


話がややこしくなってきたのでまとめたいと思います。

1.まず真空管ラジオは生産が終了している希少価値が高いビンテージの音響機器でありますが、戦前のラジオなどの旧電気用品取締法による〒マークが付いていないラジオに関しては、3月14日発表の特例措置によっての販売は認められません。戦後の〒マーク対応のラジオに関しては、認められる可能性がありますが、そのままでは安全性に疑問が残りますね。また絶縁試験は、電源プラグとアース(キャビネットやシャーシー)間で実施しますが、トランスレスラジオは電源の片側がシャーシーにアースされている物が多いので、絶縁試験はパスしません・・・。例外の機器を発表するらしいですが、果たして真空管トランスレスラジオは認められるでしょうかねぇ?
2.僕は業者ではないので、ラジオの修理は生業として実施している訳ではありませんし、ラジオの販売は実施しておりませんので、この法律の適応範囲外であると考えられます。(もともと修理は法律の範囲外です)
3.僕は安全の為に、電気用品安全法第8条第2項に相当する絶縁試験等の自主検査を実施してますが、業者ではないので、PSEマークは添付しません。(絶縁耐力の試験方法はこちら。)
4.4月に入って、秋葉原近辺で中古の真空管ラジオを販売している内田ラジオキョードーばざーら等々を見て来ましたら、以前と同じように真空管ラジオを販売しておりました。ばざーらでは、特にPSE法への対応に関する注意書きのコピーを配布しておりました。しかしこれらの販売店を通しての、貴重な文化遺産である真空管ラジオの流通が妨げられる事が無いように、この悪法が是正される事を切に希望いたします!!!


実施すべき試験項目の詳細は、下記の書籍に詳しく掲載されています。
電気用品の技術基準の解説―電気用品の技術基準及び取扱細則
通商産業省資源エネルギー庁公益事業部電力技術課 (編集) 単行本(ソフトカバー)
(1998/07) 日本電気協会 ¥7,245(税込)

この書籍の中の別表第八(94の4)にラジオ受信機の項目があります。関係する項目のみ掲載すると・・・。(一部割愛しております)
 イ.構造
  (ロ)充電部には、人が容易に触れることができないこと。
  (ハ)電源を開閉するスイッチは、別表第四2(2)へ(ロ)に規定する技術上の基準に適合するものであること。ただし、電源回路に流れる電流が0.15A以下又は電源回路に流れる突入電流がスイッチの定格電流の√2倍以下であった、別表四2(2)へ(ハ)に規定する技術上の基準に適合するものにあっては、この限りでない。
 ロ.絶縁性能
  附表第三1及び2の試験を行ったとき、これに適合すること。
 ハ.平常温度上昇
  通常の使用状態において、定格周波数に等しい周波数の定格電圧に等しい電圧を連続して加え、各部の温度上昇がほぼ一定となった時の各部の温度は、附表第四に掲げる値以下であること。
 ニ.機械的強度
  手持ち型のものにあっては、附表第五2の試験を行ったとき、これに適合すること。

附表第三 絶縁性能試験
 1.絶縁抵抗試験
   平常温度上昇試験の前後において、500V絶縁抵抗計により測定した充電部と器体の表面との間の絶縁抵抗は、二重絶縁構造のものにあっては3MΩ以上であり、かつ、次の票の左欄に掲げる絶縁の種類ごとにそれぞれ同表の右欄に掲げる値以上であり、その他のものにあっては1MΩ以上であること。

絶縁の種類 絶縁抵抗(MΩ)
基礎絶縁
付加絶縁
強化絶縁

 2.絶縁耐力試験
 (1)平常温度上昇試験の直後に行う絶縁抵抗試験の後、充電部と器体表面との間に、定格電圧が150V以下のものにあっては1,000V、定格電圧が150Vを超えるものにあっては1,500Vの交流電圧を加えたとき、連続して1分間これに耐えること。詳しくはこちら
 (2)単巻変圧器を有する機器であって、対地電圧が150Vを超え300V以下のものにあっては、充電部と器体の表面の間に1,500Vの交流電圧を加えたとき、連続して1分間これに耐えること。
 (3)絶縁変圧器を有するものにあっては、(1)に規定する試験のほか、変圧器の2次側電圧で充電される部分と、器体の表面との間及び変圧器の巻線相互間に次の表に掲げる値の交流電圧を加えたとき、連続して1分間これに耐えること。この場合において、巻線相互間の試験を行う場合の電圧の区分は、変圧器の1次側又は2次側のいずれか高い電圧によるものとする。

電圧の区分 交流電圧
30V以下 500V
31V〜150V 1,000V
151V〜300V 1,500V

・・・以下割愛。


 この法律により、貴重な過去の電気製品の廃棄が進む事が無いように、関係機関の対応を期待します!中古品にまで対象としたこの法律がすべて悪いのです!

結局この悪法は、経済産業省が非を認め、改正される事になりました。詳しくはこちら。良かったです!!!


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