真空管ラジオの修理裏話


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 いつも僕の「真空管ラジオ修復記」をアクセス頂き、ありがとうございます!このページでは真空管ラジオ紹介のページには書けなかった裏話や、苦労した点などを書きたいと思います。中には簡単に直らなかったラジオもたくさん有りました。でも修理を手がけたラジオは、すべて満足に音が出るまで修理出来ました!途中で修理をあきらめたラジオは、現在まで1台も有りません!

1.僕は今まで、14年間で280台の真空管ラジオを修復してきました。最初の頃は真空管ラジオに興味を持ったばっかりなので、まだまだ回路や修理方法に関しては解らない事も多く、修理も苦労しました。最初に修理したラジオは比較的新しいmT管トランスレスラジオだったので、そのまま通電しても音が出る状態の良いラジオでしたので、安全の為に一応コンデンサーの交換のみで修復は完了しました。が、問題は2番目のラジオからでした。このラジオは、普通の5球スーパーだと思って落札したのですが、複合管の6BM8を使った高周波1段増幅のHiFiラジオでした。オマケにマジックアイには大変珍しい6CD7を使用してあり、入手が極めて困難でした。故障原因は検波回路にゲルマニウムダイオードを使用してありこの故障でしたが、問題はそれだけではありませんでした。(これを発見するのも、最初なんで苦労したのですが・・・)しばらく聞いていると突然B電圧が出なくなり、音が消えるという珍現象が発生します。整流管を交換しても現象は同じでした。原因は半田付けの経年変化による接触不良でしょうか?いろんな問題が有る物ですねぇ?

2.次に苦労したのは、5番目のラジオです。初めて挑戦する戦前のラジオです。戦前の真空管のヒーターが2.5Vだったことと、マグネチックスピーカーという存在を初めて知ったラジオです。戦前のラジオの回路は初めて見るし、このラジオの回路はある意味で特徴のある回路で、悩みました。マグネチックスピーカーも巻き直しが必要で、初めて巻き直しにチャレンジしました。他の方のサイトを見て、回路を勉強させて頂きました。解ると結構単純な回路ですねぇ。僕はアナログLSIの回路設計をやっていたので、それに比べるとずいぶんわかりやすいです。このラジオは、修理の部品調達などで、修理に1ヶ月以上掛かりました・・・。

3.大変貴重なラジオも入手出来ました。8番のラジオです。なんと昭和28年頃のナショナルのマジックアイ付きST管5球スーパーのデットストック新品です。こんなラジオが現状で残っていて、1万円程度で落札できるなんて感激です!内部はデットストックといえどもぴっかぴっかではなく、ある程度の汚れもありますし、ナショナルラジオ特有のパイロットランプの配線の劣化も見られます。通電するのに、豆球の配線の劣化でショートしては危険なので、この配線だけは交換しましたが、ペーパーコンデンサーなどはあえてそのままにしてあります。使用された跡はなくても、ペーパーコンデンサーは経年変化で絶縁が劣化していると考えられますが、貴重な資料として、このまま保存する事にしました。当然短時間でテストしましたが、調子よく音も出ますし、オリジナルのマジックアイも明るく光ります。大変貴重な一品です。ばざーらの親父さんにこのラジオの話したら、3万円で買うと言ってくれましたが、当然売りたくはありませんでした。自分は10万円程度の価値があると思ってますから・・・?

4.その後、ラジオも10台以上修理出来たので、2001年11月にこのHPを開設しました。開設後、しばらくするとラジオを修理して頂けないかと、依頼のメールが来る様になりました。自分では、修理依頼を受け付けるとは思っていなかったので、大変うれしく思いました。初めて修理依頼を受けたのは、17番のラジオでした。このラジオの依頼人の方は、僕が東京に住んでいた所のすぐ近所でした。東京へ出かけた時にお宅にお邪魔してラジオを見せて頂き、修理させて頂く事になりました。シャーシーやキャビネットの再塗装も実施し、大変綺麗になり喜んで頂きました。

5.修理依頼品で修理に大変苦労したラジオもありました。23番のラジオです。このラジオは比較的新しいmT管トランスレスラジオなんですが、FM付きの3バンドラジオです。故障の現象としては、FMとSWは受信出来るのですが、MWが受信出来ないという故障でした。よくよく調べると、まず局部発振が発振してません。簡単かなと思ってましたが原因がわかりません。真空管を交換したり発振コイルの導通を調べたりいろいろやってみました。MWだけが発振していません。原因はバンド切り替えのロータリーSWの配線にありました。MWの時、発振コイルをGNDに落として発振を強制的に止める様になっています。FMやPU時に止めるのは解るのですが、何故MWのところに配線されていたのでしょうか?ひょっとして当初からの配線ミスだったのでしょうか?元の持ち主はFMしか使わなかったのでしょうか?謎は深まるばかりです。配線を切断してOKとなりました。その後、しばらく使ってテストしていると、今度はMWで突然チューニングが少しずれます。原因は局部発振用の470pFのチタコンの不良でした。突然容量が変化するようです。正常になる場合もあります。訳がわかりません。交換して正常になりました。その後、依頼主にラジオお送りしたのですが、数ヶ月してまた受信できなくなったそうです。今度はMWとSWが受信出来ません。局部発振は正常に発振している様です。再度修理の為に送ってもらいました。これも悩みました。原因はIFTのG側端子が、内部で絶縁不良でケースとショートしています。こんな故障もあるのですね!絶縁の為に内部をビニールテープで絶縁して完了!ショートがB電圧側でなくて良かったです。B電圧側なら、間違えなく煙か火が出た事でしょう!ああ、恐ろしや・・・。mTレスなのに、ずいぶん苦労したラジオでした・・・。今はさすがに調子が良い様です。

6.海外の方々からもよく質問のメールを頂きました。回路図や品番などの問い合わせが多かったです。回路図などを送ったりしているうちに、カナダの方からZENITHのトランジスターラジオですが、52番のラジオを寄贈頂きました。BCLラジオの走りで、ZENITHといえば、アメリカのラジオ界では有名メーカーです。古き良き、豊かなアメリカを象徴するようなどっしりした重厚な作りのラジオでした。僕も、日本のトランスレスラジオをカナダの電源事情に合わせて120V仕様に改造した希望の51番のラジオをお礼としてカナダに送りました。船便だと、1ヶ月以上掛かって無事に届いた様です。

7.72番のラジオは、初めて挑戦したラッパ型スピーカーのエリミネーターラジオです。修理依頼品だったので、最初は自信がなくてお断りしようと考えたのですが、是非ともとの事で挑戦してみました。内部は意外と単純で、状態もまあまあだったので、修復自体はスムーズでしたが、問題はラッパ型SPでした。自分は今まで見たこともないラッパ型SPです。導通があるとの事だったのですが、内部を開けてびっくり。なんと普通のダイナミックSPが上手に埋め込まれていました。確かに音は出ますが、ラジオと繋ぐには出力トランスが必要です。依頼主の方の要望により、小さなボックスに出力トランスを組みこみ、他にも流用できる様に製作しました。その後、自分もこんなラジオが欲しくなり、ちょっとがんばって75番のラジオを落札しました。こちらは状態はものすごく良く、大変綺麗に修復でき、大満足です!今の自分のコレクションのなかで、自慢の一品です!部屋に飾って、たまに音を聞いています。そのうちラッパ型SPも入手したいと思っていますが、高くてなかなか落札できません!何処かにないでしょうかねぇ?

8.73番のラジオはGT管使用のカナダ製のラジオです。自分はGT管の在庫は少なく、日本製のラジオ専門なので、部品の手持ちの関係で修理出来ない場合もあるとの約束で引き受ける事にしました。やはり修復は苦労しました。真空管の在庫がないので、mT管への変換ソケットを1つずつ製作したりして実験しました。内部はヒューズも無く、派手に燃えた跡もあり、状態はあまり良くありませんでした。局発と低周波増幅部は正常だったので、中間周波数増幅部を疑い、結局原因はIFTの不良とわかりましたが当初IFTの不良と見当を付けて手持ちのIFTと交換してみたのですが、鳴らず。結局交換した手持ちのIFTも不良でかなり苦労しました。交換時には、自分の在庫の国産のIFTと微妙に取り付け穴が微妙に違います。シャーシーをヤスリで加工して、何とか取り付けられました。IFTの不良を見分けるのは、難しいですね。

9.ラジオのキットの製作も依頼されました。特に76番のラジオは、昭和40年前後の学校教材のキットであったらしいです。説明書や回路図が無い状態でしたので、付いてきた部品の定数から回路をと推測し組み立てましたが、コイルのタップやIFTの端子に記号の記載が無く、ちょっと悩みました。組み立て後、局部発振の寄生発振が起こったりして対策しました。それなりに苦労もしてます・・・。Hi。でも、当時のキットを組み立てられるなんて、光栄です!

10.ソリッドステート・マジックアイ開発プロジェクトが完成した時は、一時的にアクセスが急増しました。1日約480回のアクセスとなりました。普通は1日270〜280回程度のアクセスなんですが、びっくりしましたね。感心がある方が多かったのか、反響や質問も多数寄せられました。部品を集めたパーツキットも数日で売れてしまいました・・・。冗談で作ってみたなんちゃってマジックアイ、意外と評判が良かったかな〜ぁ?何とアメリカからもキットを販売して欲しいとメールが来て、送りました!

11.自分は真空管ラジオはオークションで入手しています。が、あちこちで開催される骨董市や、フリーマーケットにも出かけて捜して来た事もあります。東京では東郷神社の骨董市や大井競馬場でのフリーマーケット、大阪では四天王寺の骨董市、京都では東寺の骨董市、地元秋田でも骨董市に出かけて捜して見ました。それぞれ少数ながら真空管ラジオを発見することが出来ましたが、気に入った物が無かったり、値段が高かったりで、実際に買った事はありません。みなさんは如何でしょうか?やはりオークションが種類も多く、安く入手出来そうな気がします・・・。ただしトラブルもある様です。お気を付けください!

12.現在、自分の所には真空管の在庫は約2,000本です。ST管が主で、mT管もかなりあります。約3割が新品です。ずいぶんお金が掛かったんだろうなぁ・・・?妻には恐ろしくて言えません・・・。( -_-) ラジオの方は、現在まで約280台を修復しました。(修理中を含む)そのうち自分のラジオは約50台です。約230台は修理依頼品です。修理依頼をして頂いた方々は、小学生の方から70歳代の方まで幅広いです。ほとんどの方々は2台以上修理依頼して頂くレピーターの方々です。中には10台も修理依頼された方もいらっしゃいました。また8台ものラジオを寄贈して頂きました。本当にありがとうございます!

不明なラジオの用語は、新ラジオ用語辞典を参照ください。

誠文堂新光社から2007年11月中旬に発売の「真空管ラジオ製作ガイド」の一部を執筆させて頂きました。是非とも1冊ご購入をお願いします!

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